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函館地方裁判所 昭和39年(ヨ)28号 決定 1964年4月20日

申請人 加藤英夫 外二一名

被申請人 北海小型タクシー株式会社

主文

申請人らの申請をいずれも却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

理由

第一、申請の趣旨

申請人らは、「被申請人は申請人らに対し、それぞれ別紙債権目録各該当欄記載の金員を昭和三九年三月分については即時に、同年四月分以降については毎月二八日限り支払え。申請費用は被申請人の負担とする。」との裁判を求めた。

第二、当裁判所の判断

一、申請人らのうち生井清六、鈴木利光を除くその余が、いずれも函館市内においてタクシー営業を目的とする株式会社である被申請人(以下「会社」という。)に雇傭されている従業員であり、かつ申請人らは右会社の従業員で組織する北海タクシー労働組合(以下「組合」という。)の組合員であることは当事者間に争がない(前記生井、鈴木の両名が会社の従業員であるか否かについては争があるけれども、この点はしばらくおく。)。

二、先ず、次の事実は当裁判所に顕著な事実(当庁昭和三八年(ヨ)第六一号)である。

(1)  会社は、昭和三八年二月経理状態が思わしくなくなつたため、ついに同年二月分の賃金を所定の二月二八日に全額を支払うことができず、右二月二八日と同年三月五日の二回に分割して支払うという事態になり、更に同年三月分についても三月二八日と同年四月五日の二回に分割して支払うという事態に陥つた。そうして同年四月分の賃金についてはその支払のめあてがつかなかつたところから、同年四月二八日以降の毎日の運賃収入をもつて右四月分の賃金にあてることにし、同日以降の運賃収入を組合側(当時会社には、申請人らで組織する全国自動車交通労働組合連合会に加盟の北海タクシー労働組合と、その余の従業員で組織する全日本労働組合会議系の北海タクシー労働組合とがあつた。以下必要に応じ、前者を「全自交組合」、後者を「全労系組合」、両者を「組合側」とそれぞれ略称する。)。に右四月分の賃金の一部として引渡し、組合側はこれを一括保管していたが、同年四月三日右運賃収入を従業員に対し四月分の賃金の一部として一率五、一〇〇円ずつ分配した。

(2)  ところが、その後組合側は会社が社会保険料を一〇〇万円を滞納し、その所有自動車の差押を受けていることなどを知り、このような事態では運賃収入を賃金として確保できるかどうかも危ぶまれるものと判断するに至り、同年五月一日臨時大会を開催し、その結果運賃収入を賃金に充当することを確保するために、同日以降は会社の発する一切の業務命令を拒否し、組合側自身の手で自動車を運行することを決議し、同日午後八時頃会社に右業務命令拒否を通告すると共に、同日から組合側は共同して会社所有の自動車合計三一台を占有し、会社の指揮管理を排除し、独自で右自動車の運行を開始し、その後同年六月二日以降は全自交組合は右自動車のうち二四台を、全労系組合は七台をそれぞれ占有し、前同様独自で運行を継続し、その運賃収入を組合員の賃金の支払に充てた。

(3)  このため会社は、同年七月一一日函館地方裁判所に組合側を相手方として仮処分を申請し、審理の結果同三九年一月二四日全自交組合に対しては、(イ)右自動車二四台に対する組合側の占有を解き、執行吏にその保管を命ずる。(ロ)執行吏は会社の申出があるときは、右自動車の点検、整備並びに機能保全の修理の目的で右自動車及びこれに附属する自動車検査証、エンジン・キイの使用を許すことができるなどの仮処分判決がなされた。次に、当事者間に争のない事実及び疎明によれば、次の事実が認められる。

(4)  会社は昭和三九年一月三〇日全自交組合に対し、前記仮処分判決を執行し、前記自動車に対する同組合の占有を解き、右自動車を執行吏保管にすると共に、右自動車の大半は既に自動車検査証の有効期間が経過して居り、その残りについても右検査証の有効期間が昭和三九年三月二二日で満了する状態にあつただけでなく、故障箇所などもあり整備及び修理が必要であつたところから、仮処分判決の趣旨に基き、右自動車使用の許可を執行吏に申出で、右自動車を整備工場へ移そうとしたが、組合は再三に亘り執行吏に働きかけてこれを阻止し、昭和三九年四月二日に至り漸く執行吏の許可を得て右自動車のうち一〇台を整備工場に入れることができた。そうして、会社において整備、修理をなし、自動車検査証の書換を受けることができる車輌はせいぜい一〇台程度である。

(5)  ところで、会社は前記仮処分判決がなされてからも、組合としばしば団体交渉を行い、争議の収拾について協議を重ねたが、容易に妥結点を見出すことができず、他方組合は同年二月二一日文書をもつて会社に対し、業務命令拒否指令を解除した旨及びこれにより就労を要求する旨を通告し、同日以降申請人らは会社に出勤して居り、右文書は同月二二日頃会社に到達した。そうして、会社と組合との団体交渉はその後も行われたが、依然として合意をみることができず、同年四月二日の団体交渉では、会社は、「自動車を整備、修理して検査証の書換を受けなければならず、また執行吏保管となつている現状では自動車を運行することができず、従つて申請人らを就労させることが不可能なので、右自動車を会社に引渡すことに同意して貰いたい。」旨を申入れたが、組合は、「会社が好んで自動車を執行吏の保管としたものであり、組合はこれに関知していない。全労系組合が占有していた自動車が会社に復帰しているのであるから、右自動車に申請人らを乗務させ、就労させて貰いたい。」旨を主張して意見が対立し、結局団体交渉は妥結するに至らず、右二月二一日以降会社は申請人らを就労させていない(なお、会社は全労系組合に対し昭和三九年一月二九日仮処分判決を執行し、その後数次に亘る団体交渉の結果、双方は妥結をみるに至り、同年二月一七日同組合が占有していた自動車は会社に引渡された。)。

三、よつて、申請人らの賃金請求権の存否について考えるに、申請人らは昭和三九年二月二一日以降会社に出勤して就労を要求しているのであるが、会社は自動車を運行できる状態にはないとして申請人らの就労を拒否して居り、結局このため申請人らは労務に服することができないものであることは明らかである。ところで、会社が申請人らの就労を右のように拒否したのは、前記認定のように組合側が会社の指揮管理を排して自動車を占有して独自に運行をなし、このため会社は右案件が労働事件なることを考慮に入れ、前記のような仮処分を申請することを余儀なくされた結果として、右自動車は執行吏の保管となり、会社は右自動車を営業のため使用することは許されていないこと、また会社は組合に対して右自動車を会社に引渡すことに同意して貰いたい旨を申入れたが、右組合は同意もしないばかりでなく、会社の執行吏に対する申出に基ずく全自交組合の占有から執行吏保管に移された自動車の引渡を阻止したため、その整備、修理等もすることができず、右四月二日に至つて漸くこれを整備工場に入れることができたのにすぎない。従つて、右自動車を営業のために運行の用に供することも到底できない状況にあるためであることが認められ、被申請人は他に申請人らをして就労させるべき車輌を有していたとの特段の事実は窺えない。これらの諸事情を考え合わせると、申請人らが会社の就労拒否によつて労務に服することができないことについては、会社の責に帰すべき事由に基づくものであるとは到底認めることができない。従つて、申請人らは会社に対し昭和三九年二月二一日以降の賃金請求権を有するものとすることはできない。

四、してみると、爾余の点について審究するまでもなく(申請人生井清六、同鈴木利光が被申請会社の従業員であるかどうかの事実も結論にかかわりがない。)、本件被保全権利については疎明がないことに帰し、また保証を立てさせて本件仮処分を命ずることも相当でないと考えられるから、本件仮処分申請を却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 長利正己 金末和雄 菅原晴郎)

(別紙目録省略)

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